引っ越し @下鴨


職人の皆さんの苦労・工夫の固まりである下鴨の現場も本日で晴れて引っ越しとなり、いよいよ生活の場となる。引っ越し業者に建物を傷つけられないように、工務店の藤居さんと搬入に付き添って厳重に目を光らせる。
四人来た作業員さんの中で特に一人、立ち振る舞いの慎重さに欠けた素人っぽいアルバイトがいて、仕上がったばかりの大津磨き壁を彼が傷つけないよう、壁のすぐ脇に仁王立ちして徹底的にマークしていた。案の定、搬入が始まってすぐに彼が持っていた養生用のプラスチックシートが壁に当たりそうになり、大声で注意して危機一髪で危険は回避した。
荷物もほぼ運び終わったころ彼が壁際の荷物を取ろうと壁に近づき、危なっかしいので壁から離れるように指示した。その瞬間は気がつかなかったのだが、結局彼らが引き上げたあと、そのときに付けたであろう壁のひっかき傷を発見してしまった。お施主さんは気にしないでと逆に気を遣って慰めてくれたが、これを仕上げる大変さが分かるだけに本当にがっくり来てしまった。
お施主さんの家族は小さな子供さんもいて、生活の中でこの建物にも少しづつ傷が付くことは分かっている。それでも子供達も工事にたずさわった職人さんのこだわりを目の当たりにしているから、出来る限り建物をいたわって暮らしてくれるだろう。そしてそういう空間の中だからこそ、モノや人の気持ちを大切にする人格が育つのではないかと思うのだ。
ただ、どれだけ苦労して造り上げたモノでも、何も知らない人間によってそれが水泡に帰す瞬間のなんとあっけないことか。彼はこのことには気づいてさえいないだろうし、この先も何も知らないままこうして色々なモノを傷つけていくのだろう。人間の体に優しい建物は、優しくない人間によって簡単に壊されてしまうという事実を、身にしみて感じさせられた。

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1 Comment

  1. 僕も某現場で左官壁を畳屋に傷つけられて
    激怒したことがあるのだけど、
    気づかない人はホントにまったく
    気にも留めないものなんだな、と
    びっくりし、悲しい気分にもなった。
    あまりにも交換が簡単なモノがあふれ
    モノに対する慈しみの感情が
    欠如してきている現状は打破したいものだ。

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