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今スペインにいて、触れないわけにはいかない話題「不景気」。日本でもスペインの経済の深刻な状況は何度も報道されていることと思います。この一年、現地に生活してみてのレポートを少し。

前回の2007-2008年の滞在時には、スペインは空前の好景気、というかバブル景気でした。ユーロ加入後、スペインに投入された開発資金が公共施設や高速道路など都市のインフラに使われるだけでなく、うなぎ上りの不動産価格に後押しされて無秩序な住宅への投資と建設が繰り広げられました。家賃も物価もバンバン上がって傍目にはどうしてこんな物価で生活が出来るのだろうと不思議でした。みんな不満を言いつつも、好景気のおかげで生活の見通しも明るく、派手な消費が繰り返されていました。

それから4年、今度は一転して不況のまっただ中。ただ、少なくともバルセロナにいる限りでは、一年中世界各地から押し寄せる観光客の姿は変わらないため、一見しただけでは街の活気はそれほど変わらないという印象。

こちらでの生活が何ヶ月かすぎると、少しづつ様子の違いに気がつきます。まずは建築工事の現場が激減しました。途中で工事が止まってしまった建物も、あちこちで見かけます。また、一ヶ月に何度も、デモに出くわします。国にお金がなく、公務員の給料、社会保障や教育予算がどんどん削減されていくことへの市民の反発です(先日は、国王や皇太子の給料(皇室予算というのかな?)も、7%くらい削減された)。普段から高い税金と社会保障費を払っていて、それが削られたらたまったものじゃないのはよくわかる。

大学の食堂では、ランチ形式の食事をする人がめっきりと減って、弁当持参で飲み物だけを買って済ませる人が増えた。メニューと呼ばれる定食を食べているのは、大学の教授とか職員、もしくは裕福な留学生らしき人ばかり。以前のスペインの学生の羽振りの良さを知る者からすると、涙ぐましいくらいの変わり様。

先日は消費税が18%から21%へ引き上げられることが決定。地下鉄や水道、ガスなど公共料金がバンバン上がる。不景気とは、税金がどんどん高くなり、反比例するように公共サービスがどんどん低下する、ということを痛いほど思い知らされます。そして四年前は一年の間に数回しか出会わなかった地下鉄の検察が、週に一回くらいの割合で行われています。罰金も先日二倍に値上げされて、なんと100ユーロ!(日本のキセル乗車の罰金は基本的に3倍払いだから、いくら罰金とはいえちょっと高すぎ)。警察の駐車違反の検挙や交通違反の取り締まりも、やたらと目につく。警察もお金がなくて、とにかく罰金を取ろうと必死だとみえる。

一般の人はどうかというと、25%の人が失業中で、20代の若者の失業率はなんと50%。自分の身の回りの若者を見回してみても、安定した仕事がある人はごく一握りで、ほとんどの人が「ミレオリスタmil-euro-lista」と呼ばれる1000ユーロ(10万円)前後の収入しか無く、それも一年以内の短期契約で数ヶ月後にはまた仕事を探さなければいけない人がほとんど。建築業界に至っては建築家の半数以上が仕事が無いといわれている有様で、出会った人が建築家だった場合、お互い仕事の調子はどう?なんて聞くだけ野暮なので、気まずい思いをしたことも数知れず。

そんな状態でみんななぜ生活が出来ているかというと、中高年世代は好景気の頃に獲得した貯蓄や不動産などの資産と、今のところ破綻していない年金のおかげで以前とそれほど変わりのない生活が出来ているように見えます。一方で仕事の無い若者たちは、高度成長期に別荘を含めいくつかの不動産を買うことの出来た、比較的裕福な両親の家に同居して何とか不遇をしのいでいる。好景気を享受できた世代と出来なかった世代の世代間格差がくっきりと浮かび上がっているわけですが、スペイン人の家族愛のおかげで何とか日常生活は破綻せずに済んでいる、という非常に危うい状態です。

子供の学校の送り向かえ時に、移民のお父さんお母さんと話をすると、やはり失業している人が結構多い。スペイン人より移民のほうが失業率が高いのは事実で、これまたなぜ生活が回るのか不思議だったが、移民の多くは親類も含めた大家族で同居するため、その中の1人か2人が仕事があれば、何とかなるということらしい。またスペインは税金や社会保障費が高い分、失業時には結構な額の失業保険がもらえる。ただ、失業保険の支給も二年間のみらしいので、不景気が長引くにつれ失業保険も切れていよいよ切羽詰まる人も増えてくるはず。

そんな不景気の中でも、昼間の日差しが厳しい最近は、夕方になると涼を求めて気持ちのよい路上のカフェに人々が群がっています。 つい最近21%へと値上げが決まった消費税も、カフェへの課税は8%に押さえられています。多人数での同居を迫られている人々にとって、路上のカフェで過ごす時間は生活の厳しさを忘れることの出来るとても大切な時間であり、政府にとっても人々の不満を抑えるための頼みの綱でもあるわけです。

傍目には、生活が厳しいならEU内の景気のいい場所で仕事を探せばいいやん、と思ったりもしますが、基本的にスペイン人は自分の国が大好きで家族が大好きなので、スペインを離れるのをいやがります。ただ、銀行の連鎖破綻も頻繁に噂される中、スペインの経済状態もそろそろ正念場を迎えつつあるように見えます。これから数年、温暖な気候と美味しい食事に恵まれたこの天国のような国の人々がどのような未来を迎えるのか、目が離せません。