











京都市上京区の西陣地区に位置する、2棟続きの連棟町家の改修である。近隣は今でも古い町家が密集するエリアで、街路にはあちこちで織機の音が響き渡っている。角地に位置するこの町家は織屋建てと呼ばれる形式の平面で、奥に作業スペースとして広い土間と吹き抜けをもっていた。
ただ、1階部分は日当たりが悪く、冬の寒さも厳しく、その対策が必要であった。基本設計では、1階にリビングを置く案と2階にリビングを置く案を並行して検討したが、1階が接する2面の街路は生活道路で、日中は人も車も往来が思いの外多く、騒音の心配があったこと、その一方で2階は2面接道という条件から日当たりがよく、プライバシーを気にすることなく、周囲の街並みや行き交う人びとを眺めることができるということで、2階リビング案を採用した。
1階は既存の土間が広い平面形式を基本的に継承した。玄関横に客を招く土間を配置し、また庭側の土間は洗面との間にも壁を設けないことで最大限広い土間を庭に面して確保し、奥さんの趣味の作業場や子供の遊び場となることを想定している。1階の土間の中央に確保した板張りの個室を寝室として使用し、子供の思春期は個室を分割して一部を子供部屋として使用する予定である。一階に個室を配置したことで、場面に合わせて個室を開いたり閉じたり、フレキシブルに活用できる空間となると期待している。
構造的には、2棟続きの長屋形式の町家であり、かつ妻側の既存柱の痛みが激しかったため、既存の柱の内側に新しい壁を立てて構造補強をしつつ、断熱および防音対策を行った。壁の構造補強は棟続きの隣家とのバランスを考慮して、妻側は合板で固定しつつも既存土壁を残して靭性を確保し、桁行側の構造壁も竹小舞下地の土壁とした。内側に新しい構造体をつくり直したため、既存の構造の多くが見えなくなってしまったが、古い建具や板をできる限り再利用することで、建物の歴史と素材の記憶の継承を試みた。また2階の中央に残る古い土壁もそのまま残して露出させることで、ワンルームの中に拠り所ができ、家族の団欒の場であるキッチン、リビング、ダイニングを柔らかく区切っている。
