山崎・井口さん宅にて壁仕上げ用の漆喰練り作業。材料は高知県産の塩焼き消石灰、晒し麻すさ(麻の繊維を細かく切ったもの)、海草ノリの粉末(粉つのまた)。最近はこれらの材料が調合済みの漆喰も販売されているのだけれど、それはカレーで言えばボンカレーみたいなもので、それを調理する(施工する)楽しみも味わう(鑑賞する)楽しみも本来のものには劣るので、下地の状態を考慮して調合し練り合わせてみた。

久しぶりの漆喰塗りは、無心で鏝を動かすうちにアタマの回路が切り替わるらしく、いつもと違う時間の中にいるようだ。進行中の他のプロジェクトについてよい考えが浮かんだり、しばらく思い出すこともなかった記憶がよみがえったり。3日かけて部屋のすべての壁が仕上がると、白い壁に先日仕上げた黒い床が一層映えている。
打ち合わせの中では白いペンキを塗ってしまおうかという話もあったのだが、どうもそれは消極的な判断のような気がして、気が進まなかった。ペンキが美しく見える使い方も必ずあると思うのだが、ここでは単に抽象的な白い面を作る、ということ以上にペンキを使う理由が見あたらなかったのだ。空間は、光と素材の出会いの場なのだから、「抽象」に逃げるのではなく素材にもそれを使う積極的な理由が欲しい。
今まで漆喰という素材は数ある塗り壁の表情の中では抽象的すぎて、あまり好んで使いたいと思う仕上げではなかったのだけれど、今回は漆喰こそここにふさわしいかなと素直に思えた。麻の繊維の「晒し」が不十分で、目を近づけると茶色い麻の繊維が壁一面に広がっているのがよく分かる。横から朝日が差したときの表情もなかなかよい。ちょっと漆喰を見直した。