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こちらスペインでは、日本のように工事現場の廃材を業者が車で持ち帰ることはなく、路上に置いた袋やパッカー車の箱につめて、それを別の業者が回収する、という制度になっている。おかげでそこを通りがかる僕は、古い建物に使われていたタイルの焼きの具合だとかやカタランボールトのレンガの厚みだとか、木材の材質だとかを詳しく眺めたり、また現代の職人が使っている建材についても、いろんな情報を得ることが出来ている。廃材の山をあさるなんて、こちらではジプシーくらいしかやっていないのでかなり不審な目で見られるが、古い建物から出る廃材には、古い建物の知恵がいっぱいつまっているのだ。
以前から気になっていたのは、時々その廃材の山に細く割った竹がわんさか積まれていたりすることだ。日本のように壁の下地を竹で編む習慣のないこの国で、どこにこの竹が使われていたのか見当が付かず、不思議に思っていた。それがつい先日、事務所の昼やすみに通りがかった古い建物の修復現場で、ついにこの謎が解けた。

写真は、5階建てくらいの古い住宅の玄関ホール上の天井の下地。竹を割って、縦横に編んだ下地の上に、石膏系のプラスターが塗って、装飾を施した天井をつくっていたようだ。平滑な竹の表面を上向きにしているので竹だと分かりにくいけれど、それはプラスターの接着が良くなるための工夫だと分かる。竹の間に隙間を空けず、わら縄を使わずに網代状に編むところが、日本の竹小舞下地との違い。30センチおきくらいに、上に渡した木材から吊って、プラスターも重みで垂れ下がらないようにしてあるのは、日本の天井と同じ。今まで何度も、廃材の山に埋もれた竹の破片を見かけたので、おそらくかなり一般的な天井の工法なのだと思う。
竹の厚みは3ミリ程度、だからせいぜい直径が3~4cm程度の竹だと思われる。節の出っ張りの部分が削ってあったので、竹の種類までは分からなかったけれど、竹が自生していないこの国でなぜ竹の下地を?という疑問は残る。おそらく百年くらいは前の建物で、港町のバルセロナなら安く海外の建材を仕入れることも出来たのかもしれない。
あいかわらずコアなスペインの左官ネタでした。
追記 その後,この「竹」を詳しく調べてみたところ、どうやらこれはバルセロナの郊外によく生えている葦のような植物の茎を割ったものだと分かりました。中身が中空で、表面の艶など日本の竹とそっくりですが、節が竹とは違いました。これなら手軽に手に入るので、納得です。