タデラクトを塗ってみた@マラケシュ


タデラクト用の消石灰は、マラケシュ近郊でとれる石灰岩をナツメヤシの葉を燃料にした焼き釜で焼成して生石灰をつくり、それに水を振りかけて消化するという非常に原始的な工程でつくられる。消石灰は取り置きはせず、現場ごとに発注して搬入し、施工の前日くらいに水を加えておく。一週間前では硬化が始まってしまう、とのこと。消石灰の中に適度に不純物の粒子が混じっているため、骨材を加える必要はない。写真は施工当日に現場で赤と黄色の顔料を加えているところ。

タデラクトを塗り付ける壁は、レンガ積みの躯体の上にセメントモルタルを塗っていますが、タデラクトがしっかり接着するように、表面をかなり荒してある。乾燥した気候の上、気温が高く、またレンガが大量に水分を吸うので、30分ほどかけてホースで充分に下地に水を含ませる。

基本的な道具一式。鏝板は日本の半分くらいのサイズで、幅200ミリ、高さ300ミリくらいの縦長タイプ。その他、元首形の鏝、磨き石、仕上げ用プラスチック板。
磨き石は、マラケシュ近郊の河原で、黒みがかった硬い石で作業に適した形状と大きさのものを探してきて(基本的には壁に当てる「面」が自然な状態でできているもの)、それを代々受け継いで使っているとのこと。

塗り付け直前に、全体の3~5%程度の量の白セメントを加え、撹拌する。これは、雨や日射の当たる外部仕上げや、洗面など水回りの仕上げにおいて、より耐久性を高めるために行うらしい。また、室内の床の仕上げには、大理石の粉を加えることもあるとのこと。

午前十時頃、塗り付け作業開始。今日の作業は2m×8mの横長の壁。日本のように左上端から塗る、ということは気にしない。写真の左側の職人さんのように、基本的には鏝板にのせたネタ(材料)を、鏝板でそのまま塗り付ける。鏝は端部など丁寧な塗り付けが必要な場合と、塗り付け後に偏ったネタを平にならすのに用いる。

その後塗り手は二手に分かれ、一人が一回目の塗り付けを進め、もう一人が一回目の塗り付けの不陸を整えながら、薄く二回目の塗り付けを行う。

二回目の塗り付け後を追っかけで(追いかけるように)、鏝板を木鏝代わりに使って表面の不陸を整える作業を行う。水が引いてしまった(水分が下地に吸収されてしまった)部分には、水刷毛で壁面に水分を振りかけながら、鏝板を当てる。表面に骨材の粒子が転げた跡が残っていてもかまわない。

一回目の木鏝作業のあと、ある程度水が引いてから、二回目の木鏝作業を行う。この際には写真のように右手に水刷毛を持って、表面に充分に水を振りかけながら、作業を行う。一回目の作業の目的が、表面の不陸を整えることにあるのに対し、二回目の作業は表面にノロ(骨材を含まない泥状の成分)を浮かせることが目的である。作業後の壁面は、浮いたノロが梨目状に模様を描いて表面を覆う。

ノロの水分が若干引いてから、金鏝を当てて表面を平滑に整える。日本の漆喰塗りの工程でいう「こなし」の状態。まだ表面に光沢はない。壁の一部が下地から浮いてしまったような場合は、その部分をこそげて固めのネタを塗り付けるが、色むらの心配はない。

表面の水が引いて、指で触っても指にノロが付かないくらいになったら、磨き石を丸く円を描くように(車のワックスがけのように)当てる。これは圧力をかけて磨くのではなく、表面を滑らすように動かすのだが、表面にもう一度ノロを薄く浮かせ、それを押さえていくような作業である。また同時に壁表面の骨材が転げた跡の傷などを押さえて消してしまう。磨き石の当たった壁のところどころに光沢が生じはじめる。ここで時刻は一時を過ぎ、水引の遅い部分の作業を残して職人さんは30分ほど昼食を食べる。

食事後、あらためて磨き石を当てる作業。繰り返し当てるわけではなく、くまなく一度は石を当てる、という感じである。磨き石の工程を経ると、薄く浮いたノロによって壁全体に雲のような自然な色ムラが生じる。

磨き石を当て終わってから、全体の光沢を整えるためにプラスチック板を当てる。当てのこしが無いように、壁を横から覗いて光沢を確認しながら、上下方向に丁寧に当てる。ただ、日本のように壁の上端から下端まで「鏝を通す」ことを意識する必要はない。

水引が遅い部分は、他の部分が仕上がったあとに仕上げていく。とくに壁の下の部分は、水分が垂れやすいため、仕上がりが遅くなる。新聞紙をあてて、セメント粉を張って、余分な水分を除いているところ。
これまでが、1日目の作業。

翌日になり先日の壁が乾燥したのを確認してから、オリーブ石鹸がけの作業を行う。この作業によって、タデラクト壁は汚れが付きにくくなり、また撥水性を高めることができる。1リットルの水に対し、卵二つ分くらいの量の黒いオリーブ石鹸を、手で石鹸の固まりがなくなるまで溶かす。

溶かした石鹸をスポンジに含ませ、壁面を優しく洗うように塗り付けていく。人の体を洗うのと同様、表面が少し泡立つくらいの感覚。

石鹸を塗り付けてすぐ、磨き石で円を描くように壁の表面を磨いていく。この工程でも石に圧力はかけずに、石鹸を壁の表面にすり込んでいくような感覚で作業する。壁の乾燥の過程で生じたクラックなど、気になる箇所は磨き石をしっかり当てて、目立たなくしておく。

最後に表面に残った石鹸を、よごれていない布で拭き取っていく。この作業でさらに表面の艶が一様になり、美しい光沢が得られるようになる。メンテナンス作業としては、同じようにオリーブ石鹸を塗って拭き取るか、もしくは靴磨き用のワックスを塗ることもあるとのこと。古くは鶏卵の卵白を塗ることもあった、と聞きましたが詳細は不明。
以上は、取り急ぎまとめたタデラクトの施工過程(2007.8.23~24)ですが、また思い出しながら加筆していこうと思っています。

← 過去の投稿へ

次の投稿へ →

3 コメント

  1. 山本 忠和

    ご無沙汰しています。海外の生活は子供達が居られるので少し大変そうですね。 タデラクトのレポートを拝見致しましたがやはり現地と輸入した物とでは少し違うような気がします。貴重な写真有り難う御座いました。
    お体に気をつけて頑張ってください。

  2. 初コメントです──
    ご無沙汰してます、ズシです。いかがお過ごしですか?
    マラケシュ、魅力的な街ですね!神楽岡のスライド会のときにもタデラクトの不思議さにビックリしましたが、ひとつの技術に着目することで、その土地の文化の様相が浮かび上がってくるというのが面白いですよね。
    これからも楽しみに読ませてもらいます。それでは体調にはくれぐれもお気をつけてお過ごしください。ではでは。

  3. morikazu

    おひさしぶりー。
    元気にやってます。
    マラケシュ、暑かったけど相変わらず刺激的でした。みんな携帯も使ってるけど、ほとんどアラビアンナイトの世界そのままの街です。
    スペインに来てみると、文化的にものすごく影響が強いことがよく分かります。
    できたらこちらに滞在中に、お越し下され!!

コメントを残す