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とある名庭の庭木を切り倒した際の丸太を、庭師の水谷さんが持ってきてくれた。2トン車に二台分くらいの量で、それらを降ろすとまたまた家の前庭がすごいことになった。チェーンソーで30センチくらいの長さに切ってもらって(これを玉切りという)、それを割っていくのだがこれが案外難しい。杉や桧の丸太なら、軽く斧を振るとパキーン、パキーンと面白いように割れていくのだが、今回もらったのはカシとかケヤキとか堅い木ばかり。もちろんこれを燃やすと火持ちがよくて熱量も多くて、最高の薪になるのだが、斧を振り下ろすと刃が跳ね返されてしまうくらい堅い。
四苦八苦していたら、普段は無口な隣のおじいさんがこのときとばかりに薪割りのコツを伝授してくれた。まず、丸太は乾燥すればするほど固く割りにくくなるので、切ってすぐに割ってしまうこと。そして大きな丸太を割るには斧では無理で、先の平らなタガネを何個も使って、割れ目を広げるように大きな金槌で叩いて割っていくこと。
「そうすればこんな丸太くらい、ボロクソや」とおじいさんは5.6回「ボロクソや」を連発して、貴重な助言をしてくれた。「ボロクソや」は「あっという間に片付く仕事だ」というニュアンスの職人言葉。お寺の壁塗りの仕事のときに古い職人さんが時々使うていたが、久しぶりに聞いた。ちなみにお隣のおじいさんは、元左官職人。静原の家や蔵の多くはこのおじいさんが手がけている。
丸太が乾いてこれ以上堅くなっては困るので、最近は仕事前の朝の時間帯に、家の前で小一時間ほど薪を割るのが日課になっている。近所の人はみんな、かつては薪割りを日課にしていた人ばかりなので、二股になった部分の割り方など色々と細かいコツを教えてくれる。
それにしてもケヤキは割りにくい。カシは固いけれど一旦タガネを入れるとパリンという感じで綺麗に割れるのに、ケヤキはギリギリと裂けるようにしか割れないので、他の木の何倍も大変だ。この粘り強さを見せつけられると、ケヤキの柱とか家具とかを自慢する昔の人の気持ちがよく分かる。