バルセロナの建築の外壁によく見られるのが、左官壁を削ってつくる彫刻壁エスグラフィアドesgrafiado。

まず目につきやすいところでいうと、カサ・バトリョの隣のカサ・アマトリエール Casa Amatller の外壁に大々的に使ってある。

こんな感じで色違いの漆喰を二層に塗って、表面の一部の漆喰を削り落として模様を浮き上がらせるもの。

外壁だけでなく、階段とか玄関まわりにも良く使われている。この左官仕上げは、なぜかガウディの建築にはほとんど使われていないのであまり一般に知られていないのだけど、じつはガウディが活躍した時代モデルニスモの時期にはとても良く使われている。その証拠に、このガウディの隣の建物を設計したのはモデルニスモの巨匠の一人、J.P.カダファルク Josep Puig i Cadafaich 。彼のお気に入りだったのか、彼の建物には特に良く使われています。

もともとはイスラム文化圏から伝わったらしいこの技法は、マドリードに近いセゴビアの街にいくともっと幾何学的で単純な模様が多いのですが、バルセロナは当時フランスのアールヌーボーの影響などがあって、花や植物の模様が多くて華麗な印象。

テトアン広場に面したこの建物の模様は、どちらかというとイスラム風で、バルセロナでは珍しいタイプ。

ある建物の玄関ホール部分。石に見えている壁の仕上げが、実は漆喰仕上げ。これもエスグラフィアドの一種ですが、左官仕上げのくせに石の真似をしているところがエスグラフィアドとしては邪道。


これはかなり保存状態の良いエスグラフィアド。

薄緑と薄赤の二色に着色された繊細なデザイン。

デザインも個性的で面白い。

これはランブラ・デ・カタルーニヤ通りにある、以前もこのブログで紹介したことのあるエスグラフィアド。

この壁の凄いところは、繊細な彫刻を施した上にさらに塗装で大理石の模様を描いてしまっているところ。ここまでやると邪道を通り越して、拍手喝采を送りたくなります。

まじまじとその丁寧な仕事ぶりに見とれていたら、掃除をしていたおばちゃんが天井を指して「これも偽物なのよ」と教えてくれて仰天する。まじですか?確かにおばちゃんの指の先をよくよく見ると、箒が当たって小さく欠けたという部分に、白い漆喰がのぞいていました。偽物も、トコトンやれば実物を超える、のかも知れない。

そしてこちらはポブレ・セク地区で見つけた黄色と薄緑のエスグラフィアド。この地区は今では移民が多くてちょっと強面の兄ちゃんが多い、どちらかというと庶民的な地区なのですが、実はエスグラフィアドがたくさん見つかる地区。

この模様は何回か見たことがある。どこかで型紙でも売ってたのだろうか?それとも同じ左官屋さんの仕事?

サグラダファミリアの近所で見つけたかなり強烈な色合いのエスグラフィアド。とはいっても、腰壁部分はペンキの色で、オリジナルは上のほうの上品なパステルカラー。

建設年が1918年と描いてあって、おそらく建設当時の壁だと思われるので、もう100年モノのエスグラフィアド。漆喰に混ぜられた砂の粒子が細かいので、模様の輪郭がこれまで見たどの事例よりもシャープ。たいていの場合、修復時に表面にペンキを塗られてしまっているものが多いのですが、ここは珍しくオリジナルの漆喰の色を見ることが出来る。100年経ってこの美しさ、完成当時の様子を見てみたい。