モロッコに伝わる石膏彫刻はアラビア語でナクシュ・ジップスと呼ばれている。ジップスは骨折した場所を固めるギプスのジップス。もとはアラビア語起原の言葉のひとつ。

イスラム学校ベン・ユーセフ・マドラサの中庭。ここはその石膏彫刻の最高水準の仕事を見ることができる場所の一つ。

白い壁面には彫刻が施されていて、これが全てナクシュ・ジップス。


スペインの左官装飾エスグラフィアドが削り取る壁面がせいぜい5ミリ程度なのに比べて、先日の「タハジャルト」やこの「ナクシュ・ジップス」は彫刻自体に15から20ミリ程度の厚みがある。その厚みのお陰で、彫刻がより立体的で、浮き彫りのような効果を生んでいる。また、セメントや石灰モルタルに比べて、石膏はさらに素材のきめが細かいので、とても繊細な表現も可能だ。また、石膏は硬化後も水で濡らすと多少柔らかくなるため、石灰モルタル同様、時間をかけて精巧な装飾を施すことができる。日本の建築に比べると、この過剰ともいえる装飾への情熱の源は何なのか、考えさせられる。

この作業も、道端で作業している職人さんに偶然見せてもらうことが出来た。ビリヤードのキューを操作するように、右手に持った彫刻刀を左に添えた手に沿わせて前後の操作して精度よく作業している。ここは工房で作業していたが、多くの場合は現場で塗り付けて作業するものらしく、そのため平面だけでなく立体的な彫刻も難なくこなすことができる。