ポルトの市内を走る路面電車のLAPA駅から南に見える大きなコンクリートの壁が、シザのボウサの集合住宅の目印。低所得者向けの公共住宅だと聞いていたので郊外にあると思い込んでいたのだが、思いもかけず中心部近い市街地にあってびっくりする。
それもそのはず、この住宅は1974年にサラザール独裁政権を倒してすぐの頃に建てられたもので、革命直後の住宅不足を補うために市内の劣悪な状態の住宅を解体して、建設が進められたとのこと。その後長い間不法占拠された後に建設が再開され、2006年にようやく全体が完成したという。
路面電車に平行に大きな壁が立ち、それに斜めに交わるように四つの住宅棟が平行に配置されています。
大きな壁に取り付いた廊下を歩き、壁に開けられた穴のような空間を抜けて、住宅棟のある側に出ます。
住宅棟の反対側から壁側を見たところ。
路面電車と反対側、敷地の南側は交通量の多い道路に面しています。道路と住宅との間に距離をおくため、店舗や集会用の建物が手前に配置されています。
住棟と店舗の間の細い路地のような空間。道路からアプローチする歩行者を招き入れるようなカーブ。
住棟の間の中庭。一階部分の各家の玄関がここに面しています。
中庭に木が植えられているところも。これは、この中庭が面した。道路からの直接の目線を遮る目的もあると思われる。
四階建てのこの建物は、実はそれぞれ一階と二階、三階と四階がつながったメゾネット型の集合住宅です。上のメゾネット部分の玄関は、棟の裏側に面して取り付いた廊下側に設けられていました。
そして玄関部分。シンプルで美しいスチール格子と玄関扉の間に、小さなポーチが設けられている。おかげで住民は玄関先に自由に鉢植えなどを置くことが出来て、安全上閉鎖的になりがちな玄関扉も大きなガラス面がついて、内外が断絶すること無く絶妙なアプローチ空間になっている。これは日本に比べて治安が悪いヨーロッパでは、とても珍しいし素晴らしい提案。
一階玄関側の裏側にあたる、もう一つの中庭空間。このボウサの集合住宅が紹介される時にいつも使われるのが、この整然と階段が取り付いた中庭側のカットです。三階四階のメゾネットへアプローチする廊下と、玄関が見えますが、実は印象的な階段は、一階二階のメゾネットのキッチンにアプローチするお勝手口階段だったのでした。
正面から見るとこんな感じになっています。
季節が冬ということもあって窓やカーテンを閉めている家が多かったのですが、暖かい季節になるともっと家々の生活の様子が垣間見えるのでしょう。一階部分と四階テラス部分には、洗濯物が見えました。夏になると、この階段に腰を下ろして夕涼みする人や、子供たちがサッカーをして遊ぶ姿が見られるそうです。
勝手口の建具の幅はなんと30センチ!ポルトガルに多いちょっと太めのお年寄りにはキビシいサイズのはずですが、ちょっとかしこまった玄関より、ここでの出入りを好む住人はけっこう多く、かなりの頻度で使われるそうです。
二階廊下への階段。道路と線路が平行でないのをこの空間で調整しているために、ゆったりとした吹き抜け空間が生まれていて、廊下と交わる角度が鋭角になっているために視覚的にも面白いアプローチ空間になっている。
シンプルなディテールのお勝手口階段。けっこう急勾配。
二階玄関へのアプローチ廊下。手すりの外側に細長く植栽スペースが設けられている。
玄関格子のデザイン。蝶番の簡潔なデザインがいい。
ガラス窓のディテール。内側に、夏期の日射や熱気を遮る と同時に目線を遮る、日除け扉が設けられている。
シザ事務所に勤務しておられたイトウさんの案内で、ここにお住まいの建築家夫妻の住居にもお邪魔させていただきました。深夜押し掛けての訪問だったので、写真を撮るのは控えておきましたが、内部の家具や建具ももちろんシザ事務所のデザイン。ヨーロッパでは珍しい低めに押さえた天井のスケール感が心地よい空間でした。
こうした集合住宅は、入居次期が同じであるため住民の世代が偏りがちですが、ここボウサでは昔からの住人である老人と、このデザインが気に入ってここに住み始めた若い世代が入り交じって、なかなか面白いコミュニティが生まれているそうです。
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