福岡の若手建築家が主催するレクチャーシリーズARCH(K)INDYにお招き頂き、初めての福岡に行ってきました。

主催者の1人であるatelier cubeの清原 昌洋さん設計の幼稚園を会場に行われるとてもユニークなレクチャーの企画ですが、天井が高く広々とした会場での和やかな雰囲気の中、京都を拠点に活動する私の建築遍歴のお話をさせて頂きました。(後日レクチャーのレビューも掲載して頂けるそうで楽しみ)

そして今回のコーディネーターであるナガハマデザインスタジオの板野さん、川上さんとにご案内頂き、福岡と大分の建築行脚を敢行しました。とても充実した二日間を過ごさせて頂いたので、その写真を紹介します。

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まず訪問したのは、福岡出身の建築家、葉祥栄さんの竹を下地にしたシェル建築。こちらは筑穂町内野の内野児童館。今年の夏に小豆島で建設した竹の左官ドームの兄貴分みたいな建築です。

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外形の襞(ひだ)がそのまま内観に現れていて、今は残念ながら使われていないようでしたが、ぜひ地域の遺産として活用してもらいたいと思う空間でした。

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こちらは同じく筑穂町内野の高齢者生活福祉センター。

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庇がそのまま内部空間につながって広がる、ダイナミックな空間。この作品の技術的、空間的な系譜を自分が今後受け継ぐとしたらどんなことが可能か、考えさせられました。

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続いて久留米市に建つ菊竹さんの徳雲寺納骨堂。

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最低限の着地点からコンクリートの床と屋根が広がって空間を覆う構成。鉄筋コンクリートでしか出来ない空間がありました。

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内部空間。水盤に水が張られることで、内部空間は光の波がゆらめく独特の体験が可能だったのでしょう。

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続いて、福岡市にある葉さんのクリニック。

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まるで宇宙船のようなこのデザイン、建設が1979年ですよ。窓のディテールなどまるで飛行機か電車のよう。葉さんは建築を手がけるようになる前にプロダクトや家具のデザインを手がけていたそうで、このような建築が生まれてきた背景にある興味深いお話を聞きました。

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現在も営業中であるクリニックの内観。できるだけオリジナルのイメージを損なわないよう、大切に使われている様子がうかがえます。

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そのまま福岡に戻って、福岡市内を散策。黒川紀章さんの福岡銀行本店。足下の空地部分には、カフェが出店し、思い思いに時間を過ごす人々がいる。

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翌日は清原さんもご一緒頂きながら、大分方面まで脚を伸ばし、まずは磯崎新の出世作である大分県立美術館。大分の堀端で異彩を放っていました。美術館内部の磯崎さんの常設展示は充実していて一見の価値あり。

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坂茂さんの。完成まじかの大分県立美術館。道路に面して大きな可動窓をもつ建物本体も良さそうだが道路を横切るブリッジのデザインはしびれた。さすがですな。

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そこからさらに大分県竹田市の藤森照信さん設計のラムネ温泉へ。

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銅板ぶきの屋根の荒々しいけど端正なディテール。

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続いて案内して頂いたのは、白水溜池堰堤(通称白水ダム)。これはすごい。要するにため池の堰堤なのだが、土木建築物の形のデザインではなく、水をいかに美しく流すか、というテーマに徹しているところが素晴らしい。

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清原さんたちともつ鍋を食べて散会したその日の宿泊は、アルド・ロッシ設計のホテル・イル・パラッツォ。バブルの真っ最中の1989年完成だが、今でも客足はそれほど衰えることなく使われていそうだ。

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外観の赤い大理石と緑色の鉄骨のコントラストが美しい。南欧の建築家って、こうした色づかいが色気があっていい。

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内部のバーやレストランの内装も、鏡を多用して空間の広がりを演出していたが、特に天井に塗られていたベネチアンスタッコ(イタリアの磨き漆喰)の揺らめくような色艶が印象深かった。

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三日目の最終日は福岡市内の都市空間の構成を理解するためにひたすら散策。こちらは福岡駅前にある西日本シティ銀行本店(旧福岡シティ銀行本店)。磯崎新の1971年の作品。

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分厚いインド砂岩の外壁が印象深い。

イル・パラッツォの他、キャナルシティや、天神中央公園+アクロス福岡、ネクサスのように福岡には外国人建築家の仕事も多い。これには福岡のデベロッパーである福岡地所の意向が大きいらしい。ちなみに磯崎新が本店を手がけた福岡シティ銀行も福岡地所が出資者である。

夜にはリズムデザインの井出健一郎さんともお会いできて、福岡の建築家の歴史について興味深いお話を伺った。磯崎新、黒川紀章の福岡での銀行の仕事をきっかけに福岡に縁の出来た番頭たちが福岡で独立して当地の建築家の第一世代が生まれ(もちろんその前の世代もあると思いますが)、番頭の弟子筋(第二世代)が独立した時期にバブルの時代が来て、ネクサスなどを手がけた外国人建築家のローカルアーキテクトとして働くことで当時の海外の最新の建築潮流に触れ、その弟子筋である井出さんたち(第三世代)は、第一世代の手がけた建築のリノベーションを手がける、という大きな流れがあるという。

その一方で葉祥栄のような他分野からの参入者があり、今の福岡の建築文化の層の厚みが形成されてきているのだなあと感慨を抱きながら、初めての福岡滞在を終えました。つくづく建築は面白い。