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市内の広い範囲で停電があり、我が家もまんまとそのエリアにおさまってしまった。正午過ぎに始まった停電は夕方になっても復旧しない。我が家は明るいうちに料理をして夕食を済ませてしまったが、忙しい人はそうもいかないだろう。なんとか街灯は点いているが、信号も消えて建物はみな真っ暗闇の中。八百屋やバルの人たちは商売上がったりだとばかりに路上で途方に暮れている。
しばらくして外がなんだか騒がしい。停電に頭に来た人たちが「夕食を食べさせろ!」とばかりにフライパンとおたまを持って窓際に立ち、カンカンカンカンと打ち鳴らしはじめたのだ。またたくまに街路はフライパンの音の洪水となる。そのうち車もクラクションを鳴らし、爆竹に火をつけて投げる輩も現れた。音は写らないけど、写真はちょうどその騒動のクライマックスの時。真っ暗闇の中、みんな困ってんだね。普段は特に交流もない都市の住民同士に生まれた、ほんのひとときの一体感。
結局、大きな嵐にあったわけでもないのにこの停電が復旧したのは翌日の夕方。まさか「仕事は仕事」と電力会社の人たちがゆっくり食事に出かけていた、とは思いたくないけど案外その通りだったりして。ロウソクをともしての一夜は、そういえずいぶん久しぶりだった。