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遅まきながら、花の都パリを初体験。建築の統制がとれていて確かに美しいのかも知れないけど、ずいぶん権力の臭いのきつい街だ、と思った。かつてのモスクワに、雰囲気が似ている。20代はチベットだとかイランだとか、僻地ばかりを目指していたので、建築を志す人なら来て当たり前の都市にたどり着くのに、ずいぶんかかってしまった。コルビュジエだとかジャン・ヌーベルだとか、見て回りました。

お約束のルーブル美術館にもひょこひょこ足を運びました。このガラスのピラミッドは、なかなか気持ちのいい空間だ。ダビンチもすごいのかもしれないけど、個人的に面白かったのはギリシャの彫刻や中近東やエジプトの古代文明の展示。理屈抜きで,その造形を楽しむことが出来る。

ところで、ルーブル美術館の展示空間の左官技術のレベルの高さには驚かされた。たとえばこのギリシャの彫刻の展示空間は、他の部分の大理石と色をそっくりに似せた左官壁で仕上げられていた。

壁の表情は、五厘(1.5mm)程度の大理石の骨材をまぜた石灰モルタルでざらざらした質感に仕上げてあり、最後に石灰クリームをしごき塗りしてスポンジで拭き取り、骨材が見えるように仕上げてある。荒々しすぎず、風合いがあって、でも上品で、大理石の彫刻を一層引き立てている。しかも仕上げられたのはそれほど前のものではない、最近の仕事。

床との取り合い部分は、大理石の幅木との間に12ミリくらいの底目地をとって、同面で仕上げてある。かなりモダンで高度な技術を要するディテール。日本の左官職人が見てもちょっと舌を巻いてしまうくらいの施工技術で,精度と美的感覚を合せ持った職人集団が、現代にも存在しているようだ。

これもまた別の彫刻の部屋。赤い壁は大理石張りかと思いきや、これまた全部「石膏マーブル」という人造大理石をつくる左官技術の一種。

日本では南紀白浜の「ホテル川久」で久住章さんが手掛けた石膏マーブルの柱を見ることが出来るが、ここではあらゆる場所が色鮮やかな石膏マーブルで仕上げられていた。実際には存在しないような大理石の模様をあたかも本物のようにつくることの出来る技術。

石膏マーブルの柱。大理石の模様を、あらかじめ下地にデザインしておき、着色した石膏を硬化前にデザイン通りに貼付けて硬化させ、その模様を研ぎ出すことでつくられている。ただ、詳しい工法は、作業風景を見たことが無いので分からない。

こちらは中東の展示物の部屋にあった、ベネチアンスタッコ壁の展示壁。イタリアのベローナのカステルベッキオ美術館でカルロ・スカルパが使って知られている仕上げだが、こちらもどっこい負けいていない。ひょっとしてイタリアから職人を呼んだのかもしれない。角の部分は3ミリ幅ほどの真鍮の板で見切られているのが、芸が細かくて泣かせる。

ナポレオン三世の居室でみかけた螺旋階段。「螺旋階段」というと瞬間的に「カタランボールト!」と反応してしまう。実際のところ、どうやってこの階段の構造が成立しているのかは不明。

ルーブルの一般的な見せ場である、絵画の部屋はペンキ仕上げですませてあるところが多かったが,それでもモナリザのある部屋は壁全面がスタッコ仕上げだった。これでいいの?と思うほどのひどい色むらだらけの仕上がりだったが、部屋が大きいのでそれはそれで様になってしまう。

最後は、パリのバス停でいつも見かけた下着の広告。パリの市内は、徹底的に規制されていることもあってほとんど広告など見かけないのだが、バス停だけは例外的に広告が許可されている空間のようだ(その他は地下鉄の構内くらいか)。

しかも圧倒的に下着の広告率高し。たとえば電化製品の広告では、ちょっとパリのオシャレさに似つかわしくない。日本でよく見かけるサラ金の広告なんて、いくらお金に困っている人が多くてもパリ的には言語道断だろうし、素敵な下着の広告ってのはなかなか優雅でいいじゃないですか。

パリの街というと、この下着の広告を思い出しそうです。