パビリオン行脚@上海万博

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オルドスでの左官ワークショップを終え、上海へ。深夜のフライトがさらに4時間遅れ、上海着が朝の5時という。。。15年ぶりの上海は高層ビルが林立する巨大都市へと変貌していた。
ホテルにチェックインして数時間眠って、まずは上海万博へ。EMBT事務所から上海に常駐していたIgorに連絡して、現地で落ち合う約束をする。以前は無かった地下鉄に乗ると、日本よりも立派な二重ドアのホーム。しかし、電車が到着して乗客が降りるのを待たずに我先に電車に突入するチャイナ・メンタリティは健在なり。
万博会場は、終幕前の駆け込みツアーで凄まじい人出。人気パビリオンの入場は、5時間超とのこと。先ほどの地下鉄の入り口への殺到ぶりを見ているので、そんな中で5時間も待とうという気力はとうに失せている。しかし今回はスペイン館を設計したEMBT(エンリック・ミラーリェス+ベネデッタ・タグリアブエ)事務所のスタッフのお陰で、スペイン館を隈なく見せてもらうことができて、強烈な外観ばかりが紹介されているこの建築の内部空間の魅力も十分写真に収めることができたので、それを紹介したい。
会場に着くとまずはスペイン館へ。正面のパティオは人々を迎え入れるように誘うしかけだが、そこに到達するまでには5時間の苦行が強いられるという、設計当時には思いもつかない現実。
外壁の籠編みパネルは雨に洗われて、竣工当時より少し色が褪せている。
それでもやはり自然素材、いくら汚れても色あせても、まったく気にならない。
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長者の列の周囲を回って、建物の裏側へ。ここにVIP専用入り口があって、氏名を伝えると既にリストに名前があってすんなり中に通してもらえた。
正面にまず、上階へ向かうためのゆったりした曲線を描く階段が見える。白い壁とミンブレ(籠編み)パネルとの色の対比が美しい。
パティオに面する壁は、鉄骨のストラクチャーとガラスを挟んで両面にミンブレのパネルが張られていて、パネルを透過した日差しが木漏れ日のように床に落ちている。日本の簾や、アラブの街路を覆う日よけを思い起こさせる。
天井見上げ。
音楽ホールからレストランに続く縁側のような廊下。
ドアハンドルの形が、EMBTらしい自由な造形。ドアの板材は二色に着色した竹の集成材で、ドアの模様が建具枠までつながっている。
パネルの取り付けディテール。単純明快。
レセプションのカウンターも竹の集成材。数種類の曲率にあらかじめ加工しておき、それらを組み合わせて独特の造形を成り立たせているとのこと。ここでIgor登場。初対面なのに長年の親友のような歓迎ぶり、いきなりの抱擁。やっぱええわあ、スパニッシュ・メンタリティ。しかも彼は南米ベネズエラ生まれなので、さらに磨きがかかって陽気だ。
彼の案内で二階へ。曲面の壁に挟まれた空間を、それに沿うように微妙に曲がった階段で上へと導かれていく。
上から見るレセプションスペース。一般の見学者はカウンターの向こうの入り口から、一瞬この空間を垣間みるだけなのがもったいない。
階段の三階踊り場から見る、カフェスペース。
踊り場から扉を入って、管理スペースへ。
出資企業の入る小部屋の続く廊下。
三階の会議室。
内側から、ガラスカーテンウォール、スチールストラクチャー、ミンブレパネル。
一階に戻って、通常の見学スペースへ。まずはスペインのアルタミラの洞窟や闘牛、フラメンコ、ピカソの絵画などの文化をダイナミックに紹介する、映像スペース。建築家としては、内部空間の面白さがほとんど体験できないのが残念。
続いてスペインの都市の歴史を映像で紹介する第二ルーム。ここも、クローバー形の平面が螺旋状に上昇するダイナミックな空間なのだが、それが全く体感できずもったいない。
第三ルームは、未来を象徴する赤ちゃん、それも6.5mの巨大赤ちゃん人形を展示しているスペースで、ここが唯一、一般見学者が内部空間を体験できる場所。
パティオに面した巨大なひさし状に張り出した壁の下は、カフェスペース。ここはあの恐怖の5時間待ち長蛇の列を経ず、すぐに入れる極上の場所。強烈な日光を避けて会話を楽しめる、スペインの街角にいることを錯覚させるような場所。
基本設計当時から「どうやって支えるんだろう?」と不安だったこの屋根を支えるストラクチャーは、実現したものを見るとまさに力業であまり美しいとはいえないが、その結果生まれた空間はまさにスペインライフの一部をこの敷地内に体現している。
カフェの室内部分。こちらも頭上から木漏れ日のような光が降り注ぐ、気持ちのよい空間。
基本設計でこの建築の出来上がるプロセスに参加して、その後でき上がった空間を体験しての感想は、やはり彼らは形に関するセンスが抜群で外観だけでなく内部空間まで、しっかりとその形の魅力を生かした空間を産み出すことに成功していて、その事実に感服した。予想以上だった。
模型でスタディして生まれた形を、どうやって構造とすりあわせ、現実のストラクチャーとして成立させていくのか、その実施設計の過程における形やプランの変容にもとても興味があったのだが、基本設計当初とほとんど変化は無く合理的なストラクチャーよりも形を優先していることがはっきり見て取れて、その点は自分の今の考え方とはかなり隔たりがある。
一方で、そのストラクチャーを覆う籠細工のマテリアルは、ベネデッタも設計意図として解説しているように、スペインのミンブレという伝統工芸であると同時に、世界のほとんどの地域に存在していて、ローカルであると同時にインターナショナルな素材である。事実、この建築のパネルは中国北部、山東省の籠職人が編んだものだそうだ。そうしたローカルかつインターナショナルな素材や技術を、新しいファサードのマテリアル、施工技術として復活させ、その魅力を再発見するようなアプローチは、とても共感できる。このプロジェクトに関わることができてよかった、そう思える建築だった。
カフェの椅子は、おなじみのEMBTチェア。ここでIgorからスペインパビリオン建設にまつわる色々な話を聞きながら食事を楽しみ、その後各国パビリオンの見学に。もちろん外観だけ。
今回の万博でスペイン館と並んで注目の英国館。室内から突き出しているアクリルバーによる独特の外観はさすがに印象的。オーソドックスな建築的とは言えないのかもしれないがアクリル棒を通じて内部に光が射すという内部空間を体験できないのが本当に惜しい。
続いて建築家には注目のデンマーク館。これも外観だけだが、螺旋の足下の空間など、なかなか興味深い体験が出来そうだった。
各国のパビリオンの見せ方としては、「外部も内部も建築空間で勝負」派と「外部はそれなりにインパクのあるものをつくっておいて、内部は映像とか別物で勝負」派に分かれる。建築で勝負するのが王道とは言わないが、展示の方法にはその国の文化的センスが色濃く反映するものだし、その国における建築の社会的位置づけを伺い知ることができる。イギリス館、デンマーク館は前者。スペイン館は映像の内容はそれなりに印象的だったが、映像主体の展示という点では凡庸だったで、ほとんどの見学者は後者の印象を持つと思うが、規模が各国パビリオンの中でも最大級ということもあり、その他の空間を体験すれば前者に入れてもいいものだと思う。日本館も一応見には行ってみたが、三秒見て素通り。日本が万博という場に対して建築で勝負していないことが、日本の建築家としては残念だった。
夜は上海の古い街区の中にある、EMBTの上海事務所を訪問。既に中国でのプロジェクトが複数件、進行中らしい。その後、上海在住のスペイン人建築家、ミュージシャン、ギャラリスト達とIgorの誕生日会を兼ねた夕食会。Cumpleaños feliz~~~」の歌声が、上海の片隅の中華料理店に響き渡るのであった。

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