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ケルンの駅を降りてすぐ、ケルン大聖堂から歩いて五分ほどのところにスイスの建築家ピーター・ズントーの手がけたミュージアムがあります。通称「コロンバ」—— 聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館。

古い教会の外壁の上に被せるように建てられた新しい美術館は、教会の所蔵する宗教美術品と現代美術を組み合わせて展示するというとてもユニークな試みで知られていますが、外壁がレンガ、内装が漆喰で仕上げられています。

東側道路からの外観。

西側道路からの外観。

古い教会の外壁と、透かし積みのレンガの外壁。

エントランス。

エントランスホール。

30ミリほどの厚みの特注レンガ。

入ってすぐのホールに面した中庭。

版築の壁がある。

外壁のレンガ。

古い教会の遺構を保存した暗い空間に、レンガから光が漏れる。

展示スペース。壁は砂漆喰拭き取り仕上げでマットな質感。床は白セメント研ぎ出し仕上げで、美しい光沢がある。

砂漆喰と一部の壁が金箔張りの部屋。

床と壁の取り合い部分のディテール。床の研ぎ出し仕上げは、この質感の材料自体はヨーロッパでは既製品の床材として良く見かけるのですが、この美術館では広い展示スペースすべてに継ぎ目がないので、現場施工で職人の手で一気に仕上げたことがわかる。

壁の仕上げは砂漆喰の拭き取り仕上げ。表面の石灰をスポンジか何かで拭き取ってあるので、石灰に混ぜられた大理石の粉末がキラキラと光って見える。

空間だけを見るとシンプル過ぎて無機質な空間に見えますが、素材の質感がとても艶かしくて、この建物に関わったヨーロッパの職人の手の痕跡が感じられて、とても落ち着きのある空間。

突板張りの部屋。

墨染めのカーテン。

あとでマンフレッドさんに聞いたところによると、アーヘン大学の土壁セミナーに刺激を受けて「クレイテック」という土の建材屋を設立した卒業生がいるらしいのですが、その会社がこの美術館の左官工事には材料の調合などかなり深く関わっておられるそうです。

庭につくられた版築壁も、屋根もなく雨ざらしの状態なのにあまり痛んだ様子もなく、どのような配合になっているのか、とても興味深い。クレイテック社もズントー事務所も漆喰や版築壁の配合は企業秘密として公開はしていないそうです。

日本の左官壁の配合は今でも職人の「経験と勘」頼り(特定の左官職人ばかりがもてはやされるのはその証拠)、もしくは材料メーカーによる既調合材料(こちらも配合は企業秘密)の両極しかなくて、一つの建築に対して「経験と勘」でもなく「既製品」でもない、科学的アプローチが可能になればと思うんですけどね。ヨーロッパは古い技術を知る職人が廃れて久しいと言われていますが、この美術館を見る限りではどっこいヨーロッパの左官技術は生きていて、左官というある意味原始的な技術に対しても日本以上に厳密で科学的な発展をしている気がします。