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二週間ほど前に、EMBT事務所(エンリック・ミラージェス+ベネデッタ・タグリアブエ)に再び訪れる機会があった。ちょうど金曜日の午後、スタッフの誕生日祝いをかねた小さなフィエスタ(パーティ)の場で、ベネデッタさんをはじめシャンパンを片手に和気あいあいとした雰囲気。その日はそのまま仕事は切り上げてしまったようだ。
その場で、つい先日コンペで勝ったという2010年の上海Shanghaiでのスペインパビリオンのプロジェクトの模型も見せてもらった。造形はいかにもこの事務所らしい、うねるような壁面で構成されているが、その壁面はカタロニアの伝統工芸である籠細工ミンベルを応用してつくる予定だという。外観は複雑でもシンプルでモダンに見える素材が好まれる(ように見える)スペインでは、こうしたバナキュラー(土着的)な素材を使ったプロジェクトは珍しい。(hpトップでその画像が見れます)

数日前に図書館で新聞を見ていたら、早くもデカデカとそのプロジェクトの記事が取り上げられていて、びっくりした。日本では建築の記事というと、どこどこの建物が完成した、という程度で建築家の名前さえ紹介されないことが多いのに、プロジェクトの段階でこれだ。先月くらいにもマンシージャ+チュノンmansilla+tunon事務所が手掛けたレオンの美術館MUSACが今年のヨーロッパの権威ある建築賞であるミース・ファン・デル・ローエ賞を受賞したニュースが大きく取り上げられていたから、この記事はたまたま、という訳でもない。日本で最も権威があるといわれる建築賞でも、業界誌以外には取り上げられることが稀であることを考えると、ここヨーロッパでは一般の人にとっても建築のデザインが身近な話題であることを痛感させられた。
設計事務所を運営する自分としては、日本はまだまだ建築のデザインにお金を払うことに抵抗がある人が多い。それって料理に例えると味が悪くても量が同じなら安いレストランがいい、っていうのと同じだと思うんだけど、それが現実ですね。ヨーロッパの人は優れた建築のデザインにお金を払うのは当たり前、それが自分の財産の価値を高める、という意識を確固として持っていると思う。日本の建築の記事はデザイン云々よりむしろ総工費がいくらか、というところに関心が集まるところを見ると、やっぱり味より値段が重要みたいだ。料理も建築も安いのはもちろん有り難いけど、そればかりだと人生そのものが喜びを知ることなく安上がりに終わってしまいかねない。その点、ヨーロッパ人は人生を楽しむ、という姿勢がはっきりしていて、建築や都市に対する意識にもそれが現れている。自分の人生を楽しむがための、その身勝手さに振り回されることも多いけど。