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ポルトから電車とバスを乗り継いで二時間ほどの田舎町サンタ・マリア・ド・ボウロに、ポルトガル人建築家エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ (Eduardo Souto de Moura)によって、10年もの期間をかけて改修された修道院ホテル(ポルトガルでポウサーダと呼ばれる国営ホテル)がある。4年前、EMBTの同僚とブラガの街まで来てあの有名なスタジアムは見たものの、時間切れで辿り着けなかった念願の建築。

ブラガの街からブドウ畑と美しい民家を遠目に見ながら山道をバスで走ること30分あまり、この建築があるボウロの街に着いた。バス停の前がすぐ、ポウサーダ。左側の教会は今も現役で、右側の修道院が改修されてホテルになっている。

エントランスのホテルの文字。デカい看板を挙げるなんて野暮なことはしない。

コールテン鋼の格子の扉。

光の影になったエントランスから見ると、視線の向こうには中庭があり、眩しい光が射している。

中庭の手前左側に階段があり、そこをあがるとホテルのガラス扉がある。

最初のエントランスホール。薄暗い大きな部屋の中央にアンティークの大きなテーブル。奥の窓の向こうに見えるのは修道院のパティオ。

ここから修道院のパティオを横目に見つつ、右に曲がった部屋がようやくレセプションのある部屋。

レセプションルーム。こじんまりとした、しかし印象的な赤い大理石(おそらくイタリア産)のカウンター。

見学の許可を得てその先に進むと、三つの部屋をつないだ大広間があり、それぞれ前室、バー、暖炉が置かれてる。目線の先には現代の作家による赤い抽象画が飾られている。

この三室をつなぐ壁の開口が抜群に良い。それぞれの空間を孤立させることなく、適度に分節している。石の構造的な性質から考えても、これが石造で可能だとは思えないので、改修時に鉄骨か何かで補強してこのような開口が可能になっているのだと思うのだけど、新しい素材はあえて見せずに以前と同じ素材で仕上げつつ、現代だからこそ可能な空間を実現している。


バーのある部屋に面してパティオに出る扉がある。この真鍮で出来た(おそらく)繊細な建具のフレームワークが素晴らしい。枠も鍵もハンドルもすべて特注品。



パティオの中央には左右から水が流れ込む泉があり、イスラム庭園の影響を感じさせる。そしてそれを囲むローマ風の列柱廊。


列柱廊にはかつての上家はなく、壁が一枚独立して立っているだけ。オレンジの実がたわわに実っている。

 

 

三連の部屋からパティオに沿って左に折れると、南の庭に面したサロンがある。

ここでも視線の先に赤い抽象画がある。

この建物の天井はすべて、茶色いコールテン鋼で覆われている。

サロンの先に進む階段も、再び赤大理石。

その次の部屋はビリヤードルーム。赤い絵画とビリヤード台の緑という、二つの補色が印象的。

そこで振り返ると、通ってきた通路の先に緑色の扉が見える。そして壁に古い木製建具が飾られている。

ビリヤードルームの先にトイレ。

トイレの扉の両脇の壁に絵が飾ってあるなあ、と思ったらシザのスケッチでした。そして、それがトイレの男女を示しているのでした。なんとおしゃれな!

シザ事務所のイトウさんによると、シザは打ち合わせ中に煮詰まったりすると、思考が滞ることがないように図面に端やそこかしこに人間や動物のスケッチを描き始めるそうだ。女性の裸は、よく現れるモチーフだそうで、非常にのびのびとした線で描かれている。

 

また、これは別のトイレで撮った男性側のスケッチ。兜みたいなものをかぶった男性が、お尻をこちらに向けている。緑青によく似た緑色の扉は、どんな仕上げか塗装なのか、見当がつかず。

 

突き当たりは食堂になっているが、その手前にもうけられた服掛け。

一筆書きのようなシンプルなハンガーも、おそらく建築家のデザインによるもの。

 

花崗岩がそのまま現れた食堂の内部。ここでは天井がコールテン鋼でなく、木造の梁組と野地板の現しのままになっている。



食堂の一番奥は、高い塔のような壁の天窓から光が落ちてくるようになっている。

ここで、ランチのメニューも紹介してみる。

まず、ピカピカの黒オリーブが出てくる。

そして前菜がコロッケと生ハム。

ポルトガルの典型的なスープ、青菜を加えたじゃが芋のポタージュ「カルド・ヴェルデ」

メインは、鴨肉と栗と人参のワイン煮と炒めたマッシュルームとほうれん草。

デザートは色々選べるのですが、リンゴのタルトとフルーツをチョイス。

レストランを出て、すぐの扉から南の庭に出てみる。レストランの南側は池になっていた。中央のレンガで積み増しした部分が天窓のあるスペース。

残りは広々としたテラスになっている。

テラスからの眺め。

テラスの下に降りると、プールも。

二階の客室部分にあがってみる。

階段は、オリジナルの部分を出来る限り残して、最低限の補修が施してある。

窓際には、修道院らしく窓辺で本を読んだりするための小さな腰掛けが設けられている。

客室の扉はシルバー。

ハンドル。

廊下の突き当たりの広間。

壁には幅木がない代わりに、掃除で壁を傷つけないための金物が。

修道院前の石畳と民家。

この建物について文章を書きながら色々調べていたら、最後に友人の松本崇氏がグランドツアーで訪れたブログに辿り着いた。興味のある人はぜひこちらも参照して、その密度の高いデザインを堪能してほしい。僕は時間の都合もあって(負け惜しみ)見学して昼食を食べただけで帰ってしまったが、これを読むと、なんと彼はLUXE DOUBLE ROOMに二泊もしているらしい。悔しいではないか。出来ればもう一度、夏にここを訪れてプールに入り、松本氏を悔しがらせてみたい。

写真を拝見すると床の赤い絨毯がなかったり、ここ数年で色々と模様替えもしているようだ。それでも、その魅力が失われるような変更がされていないところが素晴らしい。ポルトガルの現代建築かの作品の中でも知る人ぞ知る名品だが、ぜひ足を伸ばして訪れてほしい、おすすめ建築。